波の思い出
リリー
衣装ケースの底に今も蔵って有る
レトログリーンに白ドット柄の
スカート付き水着
もう 着れる歳でなくなってからも
ずっと処分せずにいた
これが一枚の写真の様だから
眩しい紺色の海に架かる
美しい明石海峡大橋を初めて渡った夏
足裏に焼けつくビーチでパラソルを立てる
ホテルのそばの海水浴場
泳ぎ疲れて散歩する浜辺では
たくさん打ちあがっている
白いミズクラゲの死骸
拾い上げるとひび割れてしまう
ぼったり重い葛饅頭
「そんなもの拾うなよ」
いっしょに歩くあなたの
幼子へ諭すような口調
お盆を過ぎたら出てくるといわれていた
海月が、一月以上も早く大量発生していた
クラゲ拾いをして遊ぶ私を眺める彼は
パラソルのある所へ離れて行った
あの背中は、幼い頃に
見たことがあったかも知れない
浜で一人になると
しらなみの香りで急におそってくる
心地よい倦怠感
彼の休んでいるパラソルへ戻り
もうホテルの喫茶へ行こうと誘った
「よく冷えたトマトジュースが飲みたい!」
家族連れや若い人達で混雑する海岸
寄り添ってふりかえれば
波が笑っていた