その手
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食べるものを作る人の手が触れる時
その土は地球だ

人を殺すものを作る人の手が触れる
愛する者たちの息も
貴方のものと同じ空気に違いない

星を眺めるものを磨き
星を渡るものを組み立て
星を壊すものを操る人の手が

伸ばす服の乱れ
なぞる疵のふくらみ
蛇口に置かれた丸い
ぐっと鎌を引く少女の
パレットの上は絵の具でいっぱい
溶け切れたヒューズを取り換えた夜
茹でられる山菜
包まれる錠剤
投げこまれる、花 花 花
記された航路に戻そうと懸命にコンパスを回す水夫頭
外した鎧の返り血を丁寧に拭う農婦
昏い想いを握りしめ歩く青年

人の前に立つのと
後ろに従うのとでは伝わる緊張が違う
手はとても感情的で
無言の空の奥へ
どうしても拭いきれない疑いを放りあげる
手には手の脳があり
いつか本当の祈りにたどり着くと信じ
声を綴り続ける
あなたの手と手を繋ぐ糸を決して切ってはいけない
神のために
強く組み合わせる手
子どものために
しずかに玉子の殻をむく手

他の誰かの手が
どうしてこんなに懐かしいのだろう
命をあやす
人の子の手が触れる





自由詩 その手 Copyright soft_machine 2024-07-28 12:18:23
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