花火と雲と風と影
秋葉竹

  


  花火と雲と風と影

梅雨明けに久しぶりのあまたの星、満月の夜
部屋の割に大きな柱時計は
間違いのない《とき》を刻んでいるのか?
それともただ文字盤を
針が三本移動しているだけ、の、話なのか?

雨の街をみおろすこの最上階の部屋の
窓ガラスを、滑り落ちる、水滴のように
夜景を泣かせたりはしないだろうが

それでも水滴が、最後の一滴まで
落ちてしまうのが《さだめ》なように
多少、とち狂っていようが間違っていようが
時計は音を立ててなにかを刻むのだ

地球が動いている事実なら
雲や、風や、影の、変化で理解するのだが
その理解のどこにも整合性はないから
ひとの希望という名の《絶対》が
すこしずつすこしずつ世界の階段から
ズレていくのを
時計の《とき》を考える時間にそっと感じて
雨上がりの満月の周りに
くっきりと虹がみえるという夢をただみたい

夜は、ちいさな胸にいっぱいの宝物を隠し
遅れて明日の朝には永遠の始まりが始まる
ガラスの靴を履き忘れて消えてゆく
私はいっそこのまま死にゆくのも悪くないと
おかしくもないのに、ちょっと笑って
眩しくもないのに、鮮やかさに目を奪われて
懐かしい古い家を心の中に探そうとする

打ち上げられた大きな大きな花火の
絵と、そのしばらく後に轟く音の時間差に
私は震える《うた》の心をみた気がする
人間的な満月や、月の周りに架かる虹を
焼くことのできなかった花火たち
夜風にゆっくりと流されながら
幾千幾万の綺羅な星々をなんども
夏の花火大会の火薬の煙でみうしなった

なにもなにもみえなくなったのだという
声なら声が、いつのまにか忘れ去られて
延々と煙だけがまとわりつく
まるでなにもみえなくなった、夜、だった










自由詩 花火と雲と風と影 Copyright 秋葉竹 2024-07-21 16:20:34
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