途轍もなく赤いキャンバスが垂れ流す言語
ホロウ・シカエルボク


時間は降り続ける針の雨だ、すべてが的確に俺を貫いては床を鳴らして消える、概念的な血みどろ、底無し沼に踏み入ったかのように身動きもままならない、それは痛みには思えなかった、それは傷とも思えなかった、それは不運とも思えなかった、それは日常的に俺を弄り続けてきた感覚だったからだ、もはや耐えるという意志すらなかった、抗うという段階はすでに越えていたのだ、結局のところ、そんなことの繰り返しが俺という人間を作り続けてきた、俺の思考、感覚を構成し続けてきたのだ、だから俺はいつでも、そんな世界に落ち込んだとき感情を殺して現象として受け止め続けてきた、イメージの代物だ、それがすべてではない、一番印象深いものがそういう形をとって現れているだけなのだ、全身から血を吹き上げ、魚のように痙攣を繰り返しながら、その現象の裏にあるものを知ろうとした、知るべきだ―それ以外に何がある?嘆いたり呻いたりなど俺がやるべきことではない、もう俺はそんな場所には居ないのだ、どうせならお前も覚えておくといい、牙を剥く獣などみな臆病者なのだ、自分自身の内奥と闘う時こそ、殺意と憎悪をもって臨まなければならない、それこそが自分自身の、自己表現の根幹となる精神だ、わかっていたんだ、ずっと昔から、それこそが俺を現世に留めていたんだって、わかるかい、自己表現とは肉体を使って肉体から最も遠ざかる行為だ、肉体から離れる、それはつまり生きながら死の淵を覗くということなのだ、霊体である自分自身の為に肉体である自分自身が脈を打つのだ、俺はその回路を開くために書き続けてきた、だけどそれを理解したのは、ある程度開くことが出来るようになってからなのさ、半生を賭けて俺はそれを会得し、理解したんだ、理論ではない、学問ではない、体感を繰り返して掴んだものだ、いわば行だ、それは真実の為の行ではない、それは悟りの為の行ではない、それは完成に至る為の行ではない、行の為の行なのだ、行い続けるための…行なのだ、始めたばかりのころは真実を得ようとしていた、それにまつわる、様々な欲望を同時に果たそうと目論んでいた、でもそんなことに結局意味はないのだと気付いて、俺は行うためだけにそれをするようになったのだ、本当は、そうさ、シンプル・イズ・ベストなんて、極限まで振り切った人間が初めて気づくものだぜ、最初からわかったような口をきくなんて、馬鹿げてる、やればやるほどわからなくなって当り前なのさ、俺の言ってることわかるか?理解することが目的ではない、体感することさ…その集中を、昂ぶりを、どれだけはっきりと感じることが出来るのかという話なんだ、すべてを言葉にする必要など無い、どうせすべてを理解することなど出来はしない、それにはもの凄い時間が掛かるんだ、種が発芽して、やがて大樹になるようなものだよ、肉体の中に根を張って、芽を出して、大きく伸びて初めて気づくことが出来るのさ―そしてそんなタイムラグが、出来る限り生き続ける理由になるんだ、俺がずっと欲しがっていたのは結局のところそんなリアルな生だったのさ、これにはもっともっと長い時間がかかるんだ、そして、死ぬまで終わることがない、けれど俺は、例えどこか近い未来で俺がくたばる瞬間が来たとしても、俺のことを知っている誰かが続きをやってくれると信じているよ、なにしろこれまでいろんなところでたくさんのものをばら撒いてきたからね、それくらい信じたってバチは当たりゃしないだろう、時間は降り続ける針の雨だ、俺は貫かれ、血みどろになって、俺の血の赤さを知る、俺の血の熱さを知る、俺の血が含んでいる沢山の詩篇に気付く、お前には俺が頭のおかしいやつに見えているかもしれない、だけど俺はまともさ、俺という人生にとっての最適解を手に入れて解き続けているんだ、そこに果たして客観性なんて必要なのかね―?俺はこの言葉がどこまで続いていくのか見てみたい、ひとつ書き上げたあとに、どんなものが続くのかずっと見ていたいんだ、もしもいま神様がひとつだけ願いを叶えて下さるとしたら不老不死をお願いするだろうね、「人生は有限だからこそ詩人は美しいのだ」なんて、お前は言うかもしれないね、でもそんなこと、俺にとっちゃどうでもいいことなんだよ、だって、遥か昔にも、今現在も、おそらくは可能な限りの未来にも、俺はずっと同じものを追いかけているだろうからね…「俺の血にキスしろ」って、ライブ中に叫んだパンクロッカーが居たよ、俺もたぶん同じ気持ちなのさ、俺の血を見ろ、俺の血を感じろ、ってね―なあ、簡単に確信なんか得るもんじゃないぜ、なにも知らないままで居るやつの方が沢山のことを知っているなんて話は―そんなに珍しいことじゃないはずさ。


自由詩 途轍もなく赤いキャンバスが垂れ流す言語 Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-07-21 00:46:26
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