塔野夏子




君の耳にだけ寄せる波がある
その波に織り込まれた風を聴きながら
君は眠る
あるいは踊る

フォスフォラスが鏡に映れば
ヘスペラスになり
ヘスペラスが鏡に写れば
フォスフォラスになる

そのあやうい鏡のうえで
君は眠る
あるいは踊る

いつしか君の耳にだけ絡む蔓草が
その白いちいさな花を
ひらいている



フォスフォラス:明けの明星
ヘスペラス:宵の明星
共に金星という同一の天体であるが、かつては別の天体と考えられていた




自由詩Copyright 塔野夏子 2024-07-15 09:57:27
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