守護天使の休息
中田満帆



 午後まで晴れていたのに
 それからはずっと
 降りやがって
 いまはもうちがった肉体が
 駅を拒みつづけるのはいったい、
 どういった理由なんだ、運転手さん
 おれが待っていた、すべての休息のなかで
 頰笑んだはずのものが泣いているのに
 バスがでないのは天候ばかりが理由じゃないんだ
 おれは最後に頰笑みたかった
 だのにやつらはおれを地上に巻き込んだ
 時代遅れの拷問器具でおれの躰を否定する
 熱く腫れ上がった肛門に毒汁を流し入れたんだ
 こんなことが罷るところでいったい、なにをいえばいい

 気がつくと、
 おれが泣いていた
 喪ったものは蒼穹だけじゃない
 渇いた舌をねじり入れられた思想というまちがい
 ホテルの裏口へとつづく廊下の途中で撲られた後頭部の詩学
 踊れなくなった怪人たちが調理場の革靴を塩素剤で調理しているなか、
 おれはおれを諒解できず、ヒロインのゐない人生を賭けて、
 ブリッジをくりかえしたんだ
 語り手の死をアナウンスする最期の駅のスピーカーが
 きみやあなたの心臓を要求する
 なにもやるな、なにも応えるなとおれはいう
 こんなことが罷るところでいったい、なにをいえばいい

 小説はもう読まない
 小説という死が伝染する通りで、
 2度目の事件、
 複製された事件を
 追いかけることはできない
 花と卍をとりちがえたひとびとのまえで飛行機を撃ち落とす
 みながみな、おなじように傘の隠語をくりかえすなかで
 おれはいままでにない痛みのなかで
 鎮痛剤もなく、患部を抱えながら書いている
 守護天使の休息が終わらない場所から、
 短波ラジオを受信するんだって。



自由詩 守護天使の休息 Copyright 中田満帆 2024-06-27 15:54:43
notebook Home