ゆううつ
由比良 倖
ずうっと昔、たしかに地上に生きていた誰かの物語を考えてた。白いベッドがあって、船みたいな冷たい影が過ぎていく。あるいはとても未来、そこは冬でもなくて、どんな季節でもない。まだ誰も叩いたことのないタイプライターが、樹々のあいだに並んでる。夕方には届かない。守衛は眠ってる。電線の巻かれた時計たちは、私が逆回しした。
電子の笛の音、並んで泳げない、魚の水槽、中の水、
ゆううつ、
(死の原因はその頃聖書の中では幸福な月曜日だったレゴブロックの果樹園、)
「私、みんな説明書で読みました、昔はこんなに膨らんでいた、
「ばらばらな曲線が内蔵されていた、
「靴の数よりも多くの死が歩いていた、
「そこで『僕達は内側から海に浸食されていった』、
「私はラベリングした
「公園に瓶を貼った、
そうやって拡げられていった存在、わたし、
ふめい、歴史から血を流してください、
きょどう、めいもく、
膝の方から剥がれていって、空が落ちてきた、
骨の色、風、、
風が冷たく降りてきて、虫なんか、なんか触った、物語ばかり書いた、
光るのにまかせて目をつむって本屋を開いた、海ばかり、
ひくつな海とか、
ゆううつな海。
(私のいない物語を書いた、
(色のない花、
(それから時計、
(人が歩いてきたら挨拶をするために開くドア、
それから何人首をかけても壊れない金属、