ベクトル
藤原絵理子


里山が消えていく


脱炭素を熱心に論じる
快適にエアコンの効いた会議室で
アルマーニのスーツを着込んで
化石燃料と気候変動の話を
ビジネスチャンスだと
ノリで上気した額をてからせながら
気持ちよさそうに喋っている


人を殺して賞賛されるのは
戦争のときくらいだけど
ごく一部の人の快適な暮らしのために
命を落としている人が
戦争で死ぬ人よりずっと多い
ニュースにはならないけどね


町のカフェの一杯のコーヒーのために
何人死んだのだろう
セレブの指や首や耳を飾るための
石ころを掘る穴の中で
どれほどの少年が死んだのだろう


そんなしみったれたことは考えない
なんと言ったって
ビジネスチャンスななんだから



自由詩 ベクトル Copyright 藤原絵理子 2024-06-18 22:10:39
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