夢の変容
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思い出が 目をさます

空き缶をつぶした灰皿にあふれ

かなしみに追いかけられていたあの頃

藍色の水たまりから空にこぼれ

にくしみに追いつめられる前の日

あの子に 今度こそ告げる

きちんと さよならと

思い出が 目をさます

人を愛すること 憎むことをおぼえ

それらを忘れる術を身につけ

井戸ふかく沈めた

時おりふたを揺らしもするが

耳をふさげばいい

土をかぶせてもすむ

しずかに眠りについたはずの思い出が

ふいに きまって夜

波のようにせり上がってくる

それは丸い草原や

別れの窓になって

小川や こもれ日のかがやきの奥へ

叫びながら 落としつづけた小石になって

手放せずにいる 割れた器になって

目ざめた思い出は

目ざめるうちに

別の思い出になれる

何がどう別なのか 私がわかるのは

たぶん、すべてをおわった後だろう

ただ、今はくっきりとした

ひとつの色ガラスになって

あまりにも大きく

つかみどころのない

世界の一部にもどりながら

そこでもう一度 じっとそのまま

ねむりながら待つ




自由詩 夢の変容 Copyright soft_machine 2024-05-25 13:15:43
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