悲しみのミイ
秋葉竹



  

その炎が走ることが
わたしの命のトモシビが灯ることだと
こころのなかを正確に吐露してくれた
旅人になりたかったミイは
とても元気に軽やかに憎々しく
他人やほかの動物や草花のさえ悪口を云う
憎まれ口を叩くことで
じぶんが好かれない言い訳を作る

リングの上に立ち観客を笑わせる
クラウンになりたいと想って
目と鼻と口に滑稽な色とりどりの
隈取りをしてとりわけ
悲しげな表情のときは
目にいっぱいの涙さえ浮かべてみせ
手足はできる限り大袈裟に振り回して
このテントの中でいちばんの人気者に
なりたいと想っても
あまりに心が明るくて綺麗なので
だれからも相手にされない展開を
ちゃんと知っているミイは
だからクラウンにはなれないんだ

だれも知らない夜深くの海で
美しい人魚の歌声を聴くことができる
ミイはだれよりも世界を愛しているみたい
愛に永遠はないだなんて知ったかぶりの
物語の中のセリフみたいな安っぽい
言葉をミイが吐くことは無い
愛情の片隅の暗がりにいつもいるから
いつも噛みきれない針金を
噛みつづけているからだれも近づかない
夜は
限りなく冷えるから
ミイの氷像が
とけることはないわたしはといえば
悲しみのミイの氷像を
眺めみあげているだけだ









自由詩 悲しみのミイ Copyright 秋葉竹 2024-05-20 19:43:58
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