漸近線の夜
ねことら
今日のことだけ大切で、昨日までは忘れた。
ぼくは地名も歴史もわからないし、
暮らしにはコーヒーと猫があればいいと思ってる。
AとかBとか記号のように生活を送る。
広い雨の大通りを、微生物の群れみたいな
ビニール傘が進んでいく。
いつもコマ送りみたいで、
毎日は数字に変換されて見分けがつかない。
公園、駅、学校、ドラッグストア、コンビニ、
どこも通り過ぎていくからひっかき傷もつけられない。
きみは、漸近線の夜を愛している。
夜はぼくたちの背骨に沿って
親密にそばにいてくれる。
夕食は大体パスタで、適当にチューハイを飲んで、
映画を見たあとセックスして眠る。その繰り返し。
楽しいこと、面白いことはサブスクですませて、
泣いたり、笑ったりするのもパッケージに詰めたまま、
このまま二人でどこまでも透明になっていきたい。