清らかな猫の歌
森 真察人
ああ 三年ぶりの頭の爽快
傘を差さない彼女の夢のみが僕を捕らえるけれど
穴のない血管と青空と
正しい脈拍があるからぼくは大丈夫
ぼくは精神科病棟を横切って
新しい神保町へ
勢いあまって新刊書にすら目が眩み
それすら最後の頁で値段を確認してしまう自分が
愉快で笑う
いまだ優先席で身体を揺すられて
客観的速読法に思いを馳せるとき
ぼくは脳内を流れゆくすべての雲を興味深く見送り
澄み渡る空の存在をたしかめる
円本の匂いに酔い
頁に残された栞紐の跡をなぞる
家に帰ると僕を見た母が泪を流して歓喜した
顔が白い!
彼女がそのさらさらな髪を弄ぶときに現れる
黒猫のような愛しい影を忘れよう
僕は安心してザジデンを呷った