おじいちゃん自決して下さい
紀ノ川つかさ
少子化が深刻になって
教育方針が変わり何年か過ぎた
僕の体が動かなくなってきた頃
孫がやってきて僕に言う
おじいちゃん自決して下さい
動けなくなる前に
僕は仰天する
僕たちはお前のお母さんを
たくさんの愛情をかけて育て
お前のこともずっと愛情を持って
見守ってきたのに
その相手にお前は死ねというのかい?
すると子供は笑顔で答える
もちろんお父さんやお母さん
おじいちゃんやおばあちゃんに
たくさんの愛情を注いでもらった
だから私は私の子供や孫たちに
いっぱい愛情を注いであげるんだ
みんなが私にしてくれたように
そのためにはぜひ子供をつくりたい
子供をたくさん作りたいんだ
たくさん愛情を注げるように
僕は問いかける
そうして愛情を注いだ子供や孫たちが
お前に動けなくなりそうだから
自決しろなんて言ったら
お前は悲しくないのかい?
子供は涼しい顔
それは私にその時が来ただけのこと
私はただ去っていく
子供にはそのまた子供や孫たちに
たくさん愛情を注いであげればいい
私が愛情を注いだように
人の愛情はこうして
次の世代へ伝えられてゆくのだから
愛情を注がれるためにこそ
子供たちは生まれてくるのだから
僕はまだ嫌がる
お前はいったい何を教わってきた?
お年寄りに自決しろなんていうのは
個人より国家を優先させた
冷酷な思想でしかないのだよ
子供は笑う
思想とかそんな大層な話じゃない
愛情の向かう先が未来へと
向かっていくようになった
ただそれだけのこと
昔はそれができなくて
少ない子供が親やそのまた親に
愛情を返そうと一生懸命になったから
子供がさらに生まれなくなって
世の中が大変なことになったんだって
もうそんな失敗はしないんだって
僕は世の中が変化したことを知る
かつて暗黒と考えられていたことが
屈託のない笑顔で語られる時が来たのだ
じゃあおじいちゃん
心が決まったら教えてね
お母さんが安楽死を
申し込んでくれるから