海の家
秋葉竹



 

ある海をみながら
海の家で食べた焼きそばが
美味しいって君がいったのを
憶えてる

むろんそれは
そんなになんていうか
特別に美味しいものじゃなかった
と想う

君の
やさしい舌が紡ぎ出してる
やさしい嘘なんだって
想ってた

海は目のまえで
キラキラ光って
潮の香りは
すこしからだにまとわりついて
ひとの楽しげな声が
波の音に吸い込まれてゆく

そんな空気のなかだから
美味しいって嘘も
ほんとうのホントになるのかも
しれないけど

ま、
僕が啜ったラーメンは
うーん
という出来栄えだったし
さらに端的に云うと
スープがとてもぬるかったんだ

暑い浜辺のラーメンだから
お店のひとが気をつかってくれたんだ
とか
君は云い出しかねないから
僕はあいまいに笑いながら
このラーメンも美味しいよ
って
やさしげなだけの
まっしろな嘘をつくんだ

まんまるく丸まったこころが
君の美点だねって
かつて上から目線で君を語ったけど

いまは君のこころにくるまれて
まんまるくなりたいって
希うんだ

そのあと
波間に浮かぶ白いものを
彼女は小舟といいはり
僕には波にしかみえないから
しばらくいいあらそったあと

ふたりして
ふたりとも
黙り込んでしまったのを
懐かしく想い出す

そのあとさきに声をかけたのは
どっちだったっけ?








自由詩 海の家 Copyright 秋葉竹 2024-05-04 10:39:10
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