煙草
中沢人鳥

火のついた煙草の先端
溢れる煙の螺旋構造が
玄関扉を背に
本当は青白く
極光に匹敵する
美を備えて

部屋の隅にしまわれた
竹牌は腐食している
まだ禁煙がなかった頃
和菓子屋をやっていた祖父が
盲牌をした形跡
濁った白に脂が見られる

黄ばんだ襖の痕を辿る
年金受給のできなかった夫婦の
歴史を見るなどと懐古するには
薄汚れている

フィルターに差し掛かる
何らうまくもない
灰が溢れる
また一本咥える
涙が零れる

換気扇に吸い込まれる煙が
遠い北欧へ渡ってゆく


自由詩 煙草 Copyright 中沢人鳥 2024-04-30 16:27:51
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