石蝶夢
ただのみきや
耳に舟を浮かべ
歩調乱して舞う春の
袖の桜に
つややかな
丸石を
箱に収めたまま
誰が挟んだ栞だろう
蝶は飛び
青き幕間に
*
くびれていく卵
見つめられて夏になる
寝汗の中で開花した
殻の内壁は隙間なく七色の
血の繚乱 雛嵐
そうして生も死も得ないまま
うたは涸れ 呪詛は乾き
空耳ばかり殷々と
*
鈴を振る
白い手が
手首だけが
月のよう
こころはだけ
抱く首に
まつわることば
鋏で断って
すべらかな
石ひとつ
篝火に
触れたくちびる冷やして鳴った
*
美しく乱れ
重なり傾れる表象の群れ
うたはことばを忘れ風と番う
天と地の間にかかる
揺れる吊り橋のように
こんな虚空の一点から
とけ出して
遠ざかる
どこまでも意識は空と雲
(2024年4月21日)