虚空――(この詩は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』とは無関係です)
積 緋露雪00

虚空から一筋の白い糸が垂れ下がり
その糸は金色に輝けり。
虚空をよくよく見ると巨大な大日如来の顔が覗けりては
巨大な大日如来はにこりと笑ひをりて
それで吾は地獄にゐることを解するなり。
初めは気付かなかったが辺りには地獄に堕ちたものどもが犇めきをり。
金色に輝きし白い糸に地獄に堕ちたものどもが
我先にと摑まりて
大日如来の元へと引き上げられむことに希望を見出してゐるのか
白い糸の下には巨大な人の塊が醜い争ひをしながら
ひとの頭や顔を足蹴にしては
吾のみ助かればそれでよいといふ人の業を見るなり。
吾はといふとそれを余所に唯、
他の強欲に呆然として足は竦んで動けなくなり。
やがてその金色に輝きし白糸は群衆の重みに堪へきれず
ぷつんと切れをり。
吾内心ざまあ見ろと快哉を挙げるなり。
すると大日如来が顔を虚空よりにょいっと地獄に突っ込みて
大口を開けてはくさめをしたり。
幸ひに吾はその息に飛ばされず
しかし、他は全て吹き飛ばされをり。
吾の立ちしところが幸ひしてか
吾の左右さうにはカルマン渦が出来をり。
さうしてそのカルマン渦は一つになりて旋風つむじかぜへと成長したりけり。
初めカルマン渦は共に逆回転なりて旋風は弱まりけりが
大日如来がふいっと息を吹きて旋風は成長したり。
やがて旋風は吾を呑み込み竜巻へと変はりけり。
あっという間に吾独り地獄の宙へと飛ばされて
そのままの勢ひで虚空まで上昇したり。
さうして吾、水の中に落ちにけり。
水面みなもに顔を出して息を継ぐと辺りは巨大な蓮の群生地なりを知り。
吾、巨大な蓮の葉の巨大な水滴に落ちたなり。
すると音を立てて蓮の花が一斉に開きしなり。
その荘厳な世界に吾浄土を見るなり。
やがて、その蓮の群生地は大日如来の掌の上と知るなり。
吾、巨大な蓮の葉から下を見下ろすと
不気味に蠢く虚空の天井を見るなり。
虚空からは時折血が吹き上がり
それと共に他の阿鼻叫喚が虚空の天井から湧き起こり
それを大日如来が文字に変化へんげさせては呑み込むのでありし。
蠢く虚空。
それはそれは不気味なりをり。
而して吾は浄土の蓮の葉の上を住み処にし永劫に暮らせるなり。


自由詩 虚空――(この詩は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』とは無関係です) Copyright 積 緋露雪00 2024-04-21 02:39:50
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