お伽話
塔野夏子
そのお伽話は
あまりにも語られすぎて
すっかりすり切れてしまった
意味さえもこわれて
こぼれ落ちてしまった
君がかりそめの眠りを
くりかえしてきたその日々の間に
此処には誰も来ない
あたたかくやわらかな褥がある
此処で眠るがいい
ほんとうに眠るためだけに
(此処は君がひそやかに
君自身すら気づかないほどひそやかに
咲かせていた花の内部
君は今はそれを知らなくてもいい)
眠りながら君が見るのは
いつもくりかえし見るあの夢ではなくて
新しい 不思議な どこか不安で 怖くて
でもなぜか心がきらきらと光りだすような
そんな夢
目ざめたとき その夢を憶えてはいないだろう
けれど君のかたわらに
すり切れてしまったお伽話のかわりに
新しいお伽話がたちあらわれるだろう
君に語られるために
それはいくらか古いお伽話の
俤をうつし
けれど新たな意味を帯びて
ひとの そして君自らの耳に届くだろう