悲しい酒
藤原絵理子

赤煉瓦の港町は
後ろ暗い汚物が一掃され
うわべだけは瀟洒な衣装を着ている
遠い国からの荷物に潜んだ
赤い蜘蛛にとっては新天地だ
交響曲が聞こえてくる


泥とあぶらが染みついた服で
茶色い手拭を鉢巻にした人足たちはみな
いつからか洒落た作業服を着せられ
黄と黒だけの無愛想なバリケードには
象さんや蛙さんや海豚ちゃんや兎さん


悲しんでも喜んでもいない
ただ暗い眼がコップを見つめている
暗黒の井戸を覗き込む眼
ブラックホールは空虚ではない


何杯目かのコップ酒を飲み終えれば
酔ったふりをして波止場から身を投げる
黒い海水に落ち込む瞬間
人魚姫になる夢でも見るのかな
町を守る
剣と盾で武装した人魚


恋を失ったくらいでは死ねないこの頃


自由詩 悲しい酒 Copyright 藤原絵理子 2024-03-31 18:31:11
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