遊歩道(trap.street)
アラガイs


一本の荒れた道を科学者が歩いている
意識があるうちに離れないように、
 その少し後ろを歩いているのだ
二人が進むと左右の景色は前後非対称に動く
歩いている道の途中には幾筋もの横道が逸れている
右手には草花が咲く小道
左手には坂を登る道
科学者の歩行は時々速くなり遅くなる
どんどん離れていくのでわたしは右手の小道に向きを変えた
それが近道だと確信はなかった
可憐に咲く草花を眺めて歩いていると
、前方に科学者の姿が見えてきた科学者の白衣が
それが確信だったのだ、と眩しい宙を見上げた
近づくと科学者は以前の科学者ではなかった
どうやらその前方を歩く犬に導かれている様子だった
わたしは摘み取った野苺を二粒科学者の手に差し出した
科学者はその一粒を犬に与えてやると
もう一粒を手のひらで強く握りしめた
苺は剛性の携帯に形を姿を変えた
 口の中でわたしの苺が上下に振動を始め
  草花の群れがゆっくりと小さくなり
 見下ろせば幾筋もの道には標識が掲げられ
左右非対称に動いていた景色が止まる
…………はっくしぇん!
坂道を下りてきた科学者が花粉を吸い込んできた
室内の扉が開いて科学者たちが入ってきたのだ
                  このまま眼を開かないでいれば幸せかな
    !まあ、なんてことを言うの…………
助手の女性に叱られてしまった
透明な水槽から水が流れて
肌色の犬が口を舐めている
何日めの今日だろう
天井を見上げれば白い宙の横を草花が歩いていた








自由詩 遊歩道(trap.street) Copyright アラガイs 2024-03-28 19:12:05
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