自宅警備員
松岡宮

「その言葉、あまりいい意味じゃないわよ」
といつも言うのだが
余程そのスラングが気に入ったらしく
父は自らを「自宅警備員」と名乗り始めた

緑内障に日差しはもっとも警戒すべきもの
幾度かの手術を経て警備員の仕事を引退した父は
習い始めたパソコンで「自宅警備員」という名札を作ってしまった

冬まだ暗い朝の5時
台所 リビング そして仏壇
見えない制服を着こんだ丸い背中が自宅をパトロールする
線香の煙に包まれながら世界のおなじを確かめている

護るわ、護るわ、チーン、護るわ。
令和、護るわ、チーン、護るわ。 


自由詩 自宅警備員 Copyright 松岡宮 2024-03-25 22:37:49
notebook Home 戻る  過去 未来