片喰
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小さく
小さく
そっと
道端に咲いた片喰に
笑う
横顔

鉢植えの薔薇より
幸運を招く樹より
桜並木よりも
天上に開く見えない涙の華よりも

食べられる野菊
野心と血で汚れた蒲公英
夢と希望を背負わされ
へし折られた
花壇のチューリップ
一枝2万円からの蘭

名前があるはず
科や属
そうじゃなくて
誰にも呼べない名前が
きっと
風が奏でる音の
本当の片喰を知っていいのは
ただ
愛したひとだけ

秘密みたいに
俯いて
誰にも気付かれないと
信じ切って
あなたも
その花に
微笑んだのだ
いつか
愛した人がしたように

きっと
本当になる
誰にも分からない
願いと
祈りと

すべて
手に入れた人の
口許に見える
幸福

散らばる種のために
あなたは
なにを為す
片喰が
咲いた理由がないように
太陽のせい
北風のせい
腐葉土のせい
驟雨のせい
なんらかの偶然の積み重ねに
その手が
関わらないまま

そっと
笑う
笑うだけ
片喰が
咲いたと
言うことさえなく


自由詩 片喰 Copyright 303.com 2024-03-24 18:13:43
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