瞑る春
ただのみきや

音も光も波だ
わたしは糸のもつれたまま
すぐそこの手遅れに輪郭を求めた
模索する指先を虚空が握り返す
ゆっくりと破裂する木蓮のよう

去る旋律 その尾羽の煽情的なタクト
裁ちばさみはどこまでも空を裂いた
殻を失くしたやわ肌に触れたまま
黙し続ける鉄筆のつめたさ

耳を洗う
水性インクのことばは生をなくし
遺棄されたかなしみも揮発する
ただ蜘蛛だけがそこに揺れていた
どこからともなく春が吹き抜けて

閉じたまぶたに踊る眩さ
幻聴の蝶
泥の中から金貨を拾い上げる
きみの唇だけが黒く喪に服したまま

美しい影
微笑みは涙
水面にまろぶ黄金の響き
素足にふれた蛇の仔の
舌に匂う 春
死者から芽吹く懊悩の季節

旋律は迷宮をめぐり
その一節が蜘蛛の巣にかかって揺れていた
青磁の骨壺の中
蝶はいつまでもささやきのまま



                   (2024年3月24日)









自由詩 瞑る春 Copyright ただのみきや 2024-03-24 10:58:14
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