屋台
山人
時間屋という屋台が最近この街にも見られるようになった
もう少し生きたいという人や
あの時間に戻してくれというような人
未来の時を希望する人
今をもっと濃い時間にして欲しい人
二十四時間を三十時間にして欲しい人
そのニーズにいちいち応えますと
ひらひらと三月の風に幟がなびいている
誰もチラ見はするが今の現実に慣れ過ぎて
夢を買うものなど誰も居ない
高齢者がやってきて屋台を訪ねる
三十年前に戻らせてほしいと店主にいう
はいよ!
そう言いながら店主は手拭いを捲いた頭でうなずき
料理を作り始めた
しばらく待つと
ハイお待ち!
と月並みのラーメンがタン!と置かれている
食べる高齢者
食べながら高齢者の脳が明るくなりはじめ
オレンジ色に輝き始めた
最後のスープを飲み干し
高齢者の脳は再び元に戻り
平静が訪れていた
再び元のただの老人がそこに佇み
お代を支払っている
過去にさかのぼり顧み
数々の選択は間違いはあったけれども
この屋台ではそれを
許すことができるのだった