百の夜
岡部淳太郎

数える
夜を
その存在を
その版図を
人生の裏側から君は数える
吊るされたものが笑う夜
浮き上がるものが泣く夜
どんな夜が
君に魂の改変をせまっていたのか
わからない
わからないからこそ君は
数える
夜の数
憎悪とともに 悲哀とともに
去っていった魂の数
それはともに等しく
ともに君に夜の感情の流出を
うながす

歩く
夜を
一の夜を
十の夜を
百の夜を
君は歩く
私たちを
汚れた空気にしたのはいったい誰だ?
私たちを
いやな臭いの腐敗物にしたのはいったい誰だ?
夜のそこかしこから
君を頼って声が聴こえる
ここまで深く足を踏み入れてしまった以上
けして無視することの出来ない声
けして戻ることの出来ない君
かつての 健康な君
百の夜に
百の魔の眷属
むき出しの夜を君は
歩く

生きる
夜を
百の夜を
君は生きる
すべるものが暗躍し
人の血のつながりを切断する魔物が跳梁する
致死量の夜を
君は生きる
地下水がゆっくりと目醒め
月が紅蓮の炎を吐き出す
こんな夜にこそ 柳の木の箴言を聴け
現世に鳴り響け
百の夜の鐘
君は夜をいくつまで数えたか
夜は終らない
百の夜は
今日も明日もそこにただ在る
君に訊きたいことがある
死んでみて
いったい何が変ったのか?



連作「夜、幽霊がすべっていった……」


自由詩 百の夜 Copyright 岡部淳太郎 2005-05-18 20:23:35
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夜、幽霊がすべっていった……