仮定/ひとつの言い訳(死を下見して)
アラガイs
これは独白ですよ。たぶん。嘘は混じり込んでいるとも。もちろん。想像してみたくなる。いや、自分の死なんて想像してもつまらないものですね。幾ら考えたところで当たるわけないもの。なあんて、しかし捨ておけないのも死で、たまには真剣に考えてみるのも乙なものですよ。というのも夜になれば息をひそめてわたしにぶら下がる彼ら(主に人形)は左利き。時計とは逆に廻るのが右利きのわたしだからです。摂氏マイナス一度にまで下がった夜の闇の中で歩いていました。歩くとは言っても目的は仕事なのです。明日を知りたければどうしても配達しなければならないものがある。人間も情報無しには生きていかれない身体になりました。この寒さと暗闇のせいであたまの中が廻りはじめます。どうやら熱いウォッカと血の塊が喧嘩をはじめた様子です。ぜえぜえ~と息づかいも荒く足もとがふらついてきました。後ろからピカッとライトも眩しく道路を照らしながら猛スピードでトラックがやってくるようです。危ない!咄嗟に危険を感じたので少しだけ横にずれていきます。 これは独白ですよ。 精一杯倒れ込むのを我慢しながら、なんとか右手を高く上げてドアにあるポストの中へ手が届きました。配達修了! そのまま膝から横倒しに倒れていきます。ガチン!とヘルメットが音を立てて外れた様子でした。冷たい冬の風が剥き出しになってしまった髪の毛を揺らし、やわらかな肩の生地が頬に擦れて気持ちがいい。凍えたアスファルトの上で倒れ込んでいるはずなのに何故か身体中の血という血が上昇をくり返して暖かいのです。ここはどこでしょう。天井から幾つもの丸いライトの輝きがわたしの眼に飛び込んできました。真っ白い重厚な壁に覆われて、静かなおしゃべりと美しい人々の顔が、とこれは独白ですよ。独白なんです。目の前にはいままでどおりの日常がありました。ただ時間を歩かなければならない。それを夢の中で書いているのです。もうすぐ夜は空けるでしょう。