新雪
たもつ



未明から降り始めた雪が
台所に積もっている
牧場の色彩を思いながら
わたしは冷たいサラダを
二人分作った

あなたはリビングで
新雪に埋もれたまま
詰将棋をしている
本を見ながら
何度も指し直して
たぶん春になるまで
ずっとそうしている

幸せではない時期が
わたしたちにはあった
歯医者の予約だけが増えて
その度に手帳を
買い替えていった
群れた羊を
諦めた牛のように
二人で眺め続けた

ヒーターが欲しい
あなたが言う
わたしはそれよりも
台所の丁度この辺りに
真冬でも
凍らない港が欲しかった

これから寒さは少し増して
いずれまた
暖かみが戻ってくる
わたしたちが春を待つように
春もまた
わたしたちを待ってる





(初出 R6.3.8 日本WEB詩人会)


自由詩 新雪 Copyright たもつ 2024-03-09 00:50:25
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