立春 二篇
岡部淳太郎
*
まだ寒いのに
もう立ってしまうのか
立って 先に
行こうとするのか
その後ろ姿を見つめて
僕たちは
ずっと後から
暖かくなろうとするのだが
まだ寒いのだ
もうこんなに時が経つのに
立ち上がって 行くには
気温が足りないのに
行ってしまった後ろ姿を
とりあえず
追いかけるしかないから
僕たちも立ち上がる
*
立春と言う
春が立つとは どういうことか
草が 花が 地から伸びて
立ち上がる
そのことで
春の訪れを示す
だから 春は立つのか
逆に
春は落ちる
ということはないか
春の 謀られた
手のなかに落ちて
その甘い暖かさの陶酔とともに
すべてをなしくずしに
してしまうような――
光は揺れながら落ちてきて
春を立たせて
そのなかで人は
暖かい眠りのなかに落ちて
*連作詩集『自由落下』拾遺
(2020年2月~2021年6月)