歌姫
atsuchan69
幻のステージに、
昭和を生きた女がいる
鳥の羽根で飾られた衣装を纏って
ジャズとロックンロールと演歌を混ぜた
──アジアンであり、
──洋風でもあり、
戦争に負けた戦後の日本みたいな
哀しくも夢のある不思議な歌を
孤独と、
華やかさと
焼け野原を想わせる
果てのない声で歌いつづけた
いつだったか、
真昼のラブホテルに
若い男ふたりと
高級車でやって来て、
──内緒──
そんな思い出なんか ZARA だ
わたしは歌姫、
誰にも文句なんか言わせない
強いライトの光と、
セピア色の瓦礫の街、ハワイの海、
ブラジル日系移民たち、
鯛の姿造り、ビールと日本酒、
広い畳の部屋と山ほどのファンレター
そしてヤクザと豪華な暮らし、
脚の激痛、
大勢の観衆がドームを埋め尽くす
着飾った歌と束の間の夢、
客席の隅から隅まで、
満洲国の建国、
広島、長崎、
そして地球の裏側までも
昼と夜、
闇と空腹の昨日が過ぎて
この国を支える貧しい人たちと
戦いで散った夥しい亡霊が背後に見える
幾台ものテレビカメラが並び、
小さな歌姫を、液晶パネルに大きく映す
ステージに立っているのは、
まぎれもなく女神だ、、
いつしか歌は 涙とともに
渇いた人のこころを潤していた
その艶やかな歌声と姿かたちは、
私たちの憧れだった