鏡像(7)「コミュニティ」①
リリー
雑木林の茂みから車道へ出て来た
サバトラ猫の鈴ちゃん
金網フェンスを伝って行き
施設の厨房がある裏庭を覗いてみる
昼食の準備が始まっているのね。
いい匂いがしているわ。
今朝は土手のわき道で姿を見かけなかった寮母さん
どうしてるのかしら?
×××
「PM7時過ぎ、新館二階のHさんが寮母室へ駆け込んで来る。
同室のMさんが喉に物を詰まらせ苦しんでいると報告。
下向かせて背中を叩き、吐き出させる事が出来たので大事無かった。」
朝の会議室で宿直者が長い申し送り書面を淡々と読み上げていく
朝礼での連絡事項など伝え終えてから 雑談に入る
「いやぁ、Mさんに口開けてもらって喉の奥に笹かまぼこが、
見えた時には、えっ?二枚舌かな!と思ったわあ。」
単独での宿直勤務は何があるか分からない
「あだちぃ、病院行ってきたんか?」
「うん。K産婦人科。やっぱり子宮内膜症やて言われたわ。
早く結婚して出産したら治るってさ。」
「それが、難しいんやんなぁ!」
「そうそう。先生簡単に言わはるねん…。」
午前のお便所掃除を済ませて
洗面所で手を洗う私へ 四歳歳上の先輩は
廊下拭いたモップを手にしたまま話し掛けて来る
専属の「病室」へ戻ると各人のオムツ交換と着替え、
十数名のベッドパットやシーツ、衣類の洗濯へ取りかかる
私が大きな洗濯カゴを洗濯場へ運んでいると
廊下で出合う一般棟の入居者のSさん
「あ、Sさん、いつもどうもありがとうございます!」
エプロン姿の似合う彼女は、
一階で要介助者の認知症で徘徊のある方へ
付き添ってくれている
彼女と仲の良い方々も同じように
脚が不自由だったり目が悪い方の見守りに参加くださる
寮母が忙しくしている時
自発的に、大食堂への誘導や食事を終えて居室へ戻る時にも
連れ立って送って行ってくださるのだ
午後には洗濯場から次々に
多目的ホールへ運ばれてくる要介助者達の洗濯物の山
数名の一般入居者達が長机で、それを
せっせと畳んでくださる
寮母の私達からすれば
どれだけ、助かっていたか分からない
いつも頭を下げて感謝を伝えるのだった