鏡像 (3)「秋海棠」
リリー
あれは 昨年の秋のこと
サバトラ猫のアタシが居候している
竹薮と雑木林の土手の裏にある大きな家の
離れの建物の中庭に行くと
「あ、鈴ちゃん来たわ。」
迎えてくれる おばあさんと
そこに見知らぬ女性が一緒だったわ
この時、初めてアタシも彼女と出逢ったのよ
×××
この日 彼女は、
玄関先の砂地に植っていた芒を一本
辺りに人目の無い事で魔が刺して
引き抜こうとしたのだ
上手く抜けずに手こずっていると
「あげようか?」
いつから見られていたのか?
泥棒の背中
そこには手押し車の老女がニッコリ笑って居た
間髪いれづに深謝した
母の好きだった斑入りの葉の芒、
命日に一本だけ欲しかったのだ と
正直に話した
「この芒には、シュウカイドウが似合うわ。」
枝切り鋏を手にする老女は
玄関先のブロック塀に
連なって咲いているピンク色を何本も選び
芒の束に添えながら
「日向よりも、ちょっと日影で元気に咲く花なのよ。」
奥ゆかしい花だ
そう言って 目を細め愛でる
丁寧に新聞紙で包まれた花束
自分の好きな花まで分けてくれた
おばあさんの想いが
手渡された時、腕に
ずしり と伝わって来たのだ
おばあさんは息子夫婦と同居している家の
離れの部屋に 六十代で病気の娘と二人で居る
そして出逢った彼女は病気だった母親と死別し
一人住まいだった
(第三連目から第七連目は、近江詩人会「詩人学校」八八三号に掲載。
初出 「秋海棠」より引用連想表記しました。)