Ticket To Ride。
田中宏輔
昼に、近くのイオン・モールで
いつも使っているボールペンを買おうと思って
売り場に行ったら、1本もなかった。
MITSUBISHI UM-151 黒のゲルインク
ぼくの大好きなボールペン。
待ちなさい。
空白だ。
すべての人間が賢者になったとき
互いに教え合うといった行為はもうなされないのであろうか。
それとも、さらに賢者たちは、互いに教え合うのであろうか。
おそらく、そうであろう。
互いに、もっと教え合うのであろう。
賢くなることに限界はないのだ。
きみの考える天国には
きみのほかに、いったい、だれが入ることができると言うのかね?
すべてが変化する。
とどまるものは、なにひとつないという。
だから、むなしいと感じるひともいれば
だから、おもしろいと感じるひともいる。
詩を書いていると、しばしば思うのですけれど
象徴が、ぼくのことをもてあそんでいるのではないかと。
ひとが象徴をもてあそんでいるというよりは
象徴が、ひとをもてあそぶということですね。
ぼくのなかに訪れ、変化し、立ち去っていくものに
さよならを言おう。
ぼくのなかのものと恋をし、別れ、
また、別のものと恋をするものを祝福しよう。
ぼくのなかに訪れる顔はいつも新しい。
ぼくのなかで生まれ、ぼくのなかで滅んでいくもの。
言葉には喉がある。
喉にはあえぐことができる。
喉には悦ぶことができる。
喉には叫ぶことができる。
喉には苦しむことができる。
ただ、ささやくことは禁じられている。
つぶやくことは禁じられている。
沈黙することは禁じられている。
突然
小学校の教室の、ぼくの使っていた机の穴が
ぼくのことを思い出す。
ぼくの指が
その穴のなかに突っこまれ
ぼくの使っていた鉛筆が出し入れされる。
ポキッ
間違って
鉛筆を折ってしまったときのぼくの気持ちを
机の穴がなんとか思い出そうとしている。
折れた鉛筆も、自分が折られたときの
ぼくの気持ちを、ぼくに思い出させようと
ぼくの目と耳に思い出させる。
ポキッ
鉛筆が折れたときの光景と音がよみがえる。
鮮明によみがえる。
目が
耳が
顔が
折れた鉛筆に近づいていく。
ポキッ
再現された音ではなく
そのときの音そのものが
ぼくのことをはっきりと思い出した。
ここで転調する。
幻聴だ。
また玄関のチャイムが鳴った。
いちおう見に行く。
レンズ穴からのぞく。
だれもいない。
ドアを開ける。
だれもいない。
だれもいない風景が、ぼくを見つめ返す。
だれもいない風景が、ぼくになり
ぼくは、その視線のなかに縮退し
消滅していった。
待ちなさい。
空白だ。
今年のポエケットでは
あつすけは削除されている。
笑。
だれひとり入れない天国。
訪れる顔は
空白だ。
女給の鳥たちの
死んだ声が描く1本の直線、
そこで天国がはじまり、そこで天国が終わるのだ。
線上の天国。
笑。
あるいは
線状の天国。