病院
たもつ
廊下に咲いた花を
摘んで歩いているうちに
迷ってしまった
春の陽が差し始めた病室に
戻りたかっただけなのに
白い売店や
柔らかな窓ガラスに触れて
いくつもの季節に
取り残されていった
日々の暮らしの中で
少し嫌な匂いがすると
看護師の薄いスクラブで
新しい親指が産まれている
お医者さんが命に似たものの
問診をするけれど
何を差し出せばよいのか
本当は誰も知らない
海岸へと続く受付の所で
係の人が海風に揺れながら
息の継ぎ方を案内している
病室は今ごろ何度目かの
春の陽射しが溢れ
ふと沖の方に目を向けると
外の海に向かって泳いで行く
美しい作業療法士の群れ
(初出 R6.3.1 日本WEB詩人会)