くれないの風のうた
秋葉竹






  

そうやってあたしたちは
その歌が聴こえてくるのを
信じて待っていた


今夜こそありがとうと云えるという
溶け始めたグラスの氷みたいな嘘を
溶かさないように気をつかいながら


だれもいない夜空に向かって
綺麗な風が吹く海辺の孤独から
聴こえない嗚咽がこぼれ出すから


堰を切ったように溢れ出した言葉を
ありもしないやさしさを込めて
サイコーの歌だって信じ切るのさ


嘘でもかまわないが嘘なんかじゃないって
今夜だけは見逃さないで
今夜だけは強くなって見栄を張って


なにもドラマなんかじゃないけど
大丈夫なんだって信じてる
少しあたたかいだけのキスもしたことだし
.

みていたあたしたちは
蘇るストーリーを読むように唇を読む
ほんとうの心はむろん読めやしない


遠い想い出というか過去の煌めきというか
愛おしいというか抱きしめたいというか
あたしたちはいつだって立ち止まらなかった


生きることに苦痛なんて伴わないと
あたしだけをみつめる瞳のなかの
静かな炎の色は熱いけどとても穏やかで


君だけをみつめているあたしの
おもわず吹き出しそうな笑い声みたいに
すこしアッチ系の愛情色を滲ませているんだ


この聴きとりにくい歌をヘタなコメディと
嘲笑って笑い飛ばしてくれてもいいけど
最後まであたしたちは紅の風だったよな










自由詩 くれないの風のうた Copyright 秋葉竹 2024-02-27 23:37:14
notebook Home 戻る