はばたきは、いつか
ホロウ・シカエルボク


あなたは枯れた蔓を集めて、血管をこしらえた
わたしは綿毛を集めて心臓を作り、それを繋いだ
なにも無いこの地にはいつも、優しく撫でるような風が吹いていて
そのせいでわたしはいつだって落ち着かなかった
たくさんの鳥がいっせいに飛び上がるのを見たの
冬にしては暖か過ぎる日のことだった
わたしはかれらがなにかの兆しを感じ取ったのだと思って…あとをついて行きたくて仕方がなかったけれど
あなたには微塵もそんな思いは無く、だから
わたしはそこを立ち去るべきだと決意したの

風の中で、ずっと、だれかがつぶやいているような気がしていた
それはきっとあまり褒められた存在では無かったのだ
だけどわたしには些細なことだったし
そのせいでたとえば破滅が待っているのだとしても
わたしはきっとその、くすぐったさのようなものを
拒否することなんか決して出来なかった
めずらしく訪れた嵐の中、わたしは足跡を残さないように
どんな音も置いて行かないようにつとめた、きっと
だれのためでもなく、ただ自己満足のために
わたしの跡のことなどわたしにはどちらにしても
どうでもいいことのはずなのに

たくさんの鳥がいっせいに飛び上がるのを見たの、わたしはきっとそこに、どんな光も闇も感じることは無くて
そのことをとても恐ろしく感じてしまった
恐怖から逃れるためにわたしは動き始めたのだ
鳥たちがどこに飛んでいったのかなんて知らない、一度も
調べたことすらない、だけど
羽音が鳴る、羽音が鳴る、たくさんの羽音が鳴るの
それはわたしの背中に針を刺すように響く
たくさんの鳥たち、わたしは、あのときにきっと
言葉では拾いきれないたくさんのものを見たのだわ、追いかけてはいけない、その瞬間の出来事はなにひとつ
バスルームで思い出すだけにしておかなければならない

知らない朝の中で目覚めるときに、わたしは産道からはみだした日のことを思う、きっとそれは
長い目で見ればそれほど違いはありはしないのだ
わたしは赤子のようにたくさんのものを見た
そしてそのたびに
綿毛の心臓はたくさんの血液をわたしの体内に吐き出し、飲み込んだ
血液の材料がいったいなんだったのかなんて思い出せない、だけど
きっとそれは全身に刻まれているに違いない
わたしには言葉があり、音楽があり、画用紙がある
鳥たちはいつかあの場所に帰るだろうか
でもきっとわたしは
いつだってそのことを知らないままでいるに違いない



自由詩 はばたきは、いつか Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-02-21 22:53:06
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