のらねこ物語 其の二十一「木彫りの虎」(ニ)
リリー

 「ほんとにさ、どうしちゃったんだろね?」
 手代が店を閉めると 丁稚小僧と店内清掃済ませたおゆうが
 夕飯のお膳の準備をしているおりん捕まえて話す
 「そうね。…。」
 二人は、この一ヶ月以上もガラス鉢で動かない金魚を
 見つめるのだった。

 そんな晩のこと
 おりんは不思議な夢を見た
 
 掛け軸を見るおりんが
 「どうして泳がなくなっちゃったの?」
 金魚に、問いかけてみる
 そして ふと気付くのだ
 「そういえば、大野屋さんの木彫りの虎が置かれるように
  なってからよね…。」

 すると その言葉を聞いた掛け軸の
 ぴたっと動かなかった金魚二匹はパッと
 顔を、おりんへ向けた
 可愛らしい子供の声で口を揃えて言ったのだ
 「え?あれ、虎だったの!てっきり猫かと、思ってました。」

 夢から覚めると隣で口を開けいびきをかいている
 おゆうの顔
 おりんは 独り笑いを洩らす
 「そんなはずって、ないじゃない。」

 けれども その日から掛け軸の金魚はまた泳ぎ始めたのだった

 近江屋では掛け軸のおかげで客足が伸びたため
 近江屋が大家である長屋の人達へ、週に一度の炊き出しを
 するようになる
 そうして 旦那様の弟である大番頭さんが
 暖簾分けで春になれば深川にもう一店
 出すことになったのである。
 


  其の十九、其の二十、其の二十一については、
  古典落語の演目「ねずみ」より引用連想表記している箇所があります。

 


自由詩 のらねこ物語 其の二十一「木彫りの虎」(ニ) Copyright リリー 2024-02-20 11:10:20
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