のらねこ物語 其の四「振り返れば奴がいる」
リリー

 「俺は三両の、ねこだ。」

 河原の橋の下
 腹空かせてぶっ倒れている
 トラは 小声で
 それを自分に言うとのっそり
 起き上がる

 「また、その話か。耳にタコだぜ。」
 側で見下ろしていた
 イワシの口元から
 フッ と飛んで落ちる楊枝

 「どうだ、そう突っ張らず。今晩オレと近江屋のお嬢様の食べ残し、
  魚の骨ご馳走になりに行こうじゃないか?」

 「いいのか?俺なんかが行っても…。」

  ああ、大丈夫だ一人ぐらいなら。おきぬさんが、
  「お前、顔が広いんだねえ。友だちは大事にしなよ。」って、
  頭撫でてくれるんだぜ。

 「おまえさ、草地の葉っぱで汚れ落として毛繕いしておけよ。」

 歩き出すトラの目に
 振り返ると 微笑む奴の
 小綺麗なチャコールグレーの毛並みがまぶしかった。
  



 注)一両は、江戸時代の初期で十万円。中期から後期で三万円から五万円。幕末頃は三万円から四万円。


自由詩 のらねこ物語 其の四「振り返れば奴がいる」 Copyright リリー 2024-02-12 12:04:41
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