のらねこ物語 其の一「銀世界」
リリー

 ある日
 河原の橋の下
 まだ うす暗いうちに

 藁蓆で作った擦り切れた叺を寝床にして 
 潜り込んで居るトラが
 目を覚ますと
 「うわっ、大変な雪だ!」

 彼の脇腹に頭を埋め
 寝ているワイフは目も開けず
 面倒くさそうに
 「どれほど降ったのよぉ?」

 雪あかりの川辺
 鳥も鳴かず
 唯 しんしんと

 「そうだなぁ…。」
 雑穀問屋で飼われているタマと仲のいいトラ
 顎に手を当てて呟いた

 「深さ五寸ほどかな。はばは、どれほどあるか分からん。」




 注)江戸時代、ダンボールは普及していない。
   藁蓆を二つに半折し両端を縄で閉じて封筒状にした袋の容器を叺という。
   この「かます」には肥料、石炭、塩、雑穀などを入れた。
   
 第六連目は『小さなわらいばなし』上巻 
  作・さとうわきこ 協力・松本新八郎 え・二俣英五郎
  題目「雪」から引用連想表記しました。
 
 


自由詩 のらねこ物語 其の一「銀世界」 Copyright リリー 2024-02-11 09:42:41
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