それは天使ではなく
ただのみきや
朝の輝きに包まれて
目覚めたまま夢を見た
雪解けの丘陵地
窪地を挟んで遠く
森は黒々とけば立っている
見おろせば
まばらに雪の残ったぬかるみを
歩くひとりの後ろ姿
すこし後からやせた犬が
足跡を嗅ぎながらついてゆく
わたしには見えない聞こえない
匂いやせせらぎ囀りが
冷えた頬や耳たぶ
風の手櫛にかすかにゆれる
髪の先に纏わっているのだろう
どんなに耳を澄ましても
聞こえない歌声 旋律が
針と糸のように繰り返し
わたしのこころに何かを縫い付けた
傷口がしみるようで
不快ではなく
涙は熱い 驚くほどに
わたしは遠い背中に翼を認めた
決して天使などではない
一瞬の中に永遠を見つけ
一行の中へ閉じ込める
詩人の孤独
風を捉えても
決して舞い上がることのない
地を行きめぐるには重すぎる
むき出しの翼
(2024年2月10日)