浅い眠り
レタス
騒めきの通りから
暗く曲がりくねった路地に誘われて
踵を返した
ランプが点いたドアの前
コツコツとノックして把手を回した
鍵はかかっていなくて
乾いたほのかな風がぼくを包んだ
ドアを閉めてみると微かな電灯が闇を切り裂いていた
迷路の廊下を辿るとドアがもうひとつ
コツコツとまたノックする
やはり鍵はかかっていなかった
ドアを開ける と
ベージュの空間が広がり
大古の空気が満ちた化石の森だった
岩々には三葉虫やアンモナイトの囁きが微かに聞こえてくる
ティアノザウルスは此処はお前の来る処ではない!と唸った
ぼくはもう行く処が無いのです と 応え
走りに 走った!
またドアがあって飛び込んだ
其処は狂った時計の森だった
時計たちはぼくに
いま何時! いま何時! と絶え間なく聞いてくる
このままではぼくも狂ってしまう
両手で耳を塞いで
走りに 走った!
またドアがあり
飛び込んだ!
其処は鏡の世界だった
何処から聞こえてくるのかわからないけれど
ハッッハッッハァ! どれがお前なのか判るか? と
ぼくはどれがぼくなのか分からなくなった
やがて薄絹に包まれ
柔らかな布団にくるまって
スズメのさえずりに眼が醒めた
とても疲れた朝だった
初出 日本WEB詩人会 2004/02/09