ばいちゃん
佐々宝砂

その子にはちゃんとした名前があるのですが
いつも汚い服を着ているしそばによるとなんだかくさいので
先生のほかは名前を呼んでくれません。
いじわるな子は「ばいきん」と呼びます。
わりとやさしい子は「ばいちゃん」と呼びます。
(私も「ばいちゃん」と呼ぶことにします)

「ばいきん」と呼ばれても「ばいちゃん」と呼ばれても
ばいちゃんは学校が好きです。
今日は遠足なので、うれしいなと思っています。
でも、ばいちゃんはお弁当もお菓子も水筒も持っていません。
しかたないなあという顔をして、
先生が自分のお金でコンビニのお弁当を買ってくれました。
ばいちゃんはうれしくてたまりませんでした。

先生はまだ知りませんが、
ばいちゃんの腕には小さなやけどのあとがいくつもあります。
先生はまだ知りませんが、
ばいちゃんの家にはうんこを髪にこびりつかせた弟がいます。
先生はまだ知りませんが、
今夜先生がばいちゃんの家に電話するのをきっかけに、
ばいちゃんはもう二度とたてない身体になってしまうのです。


自由詩 ばいちゃん Copyright 佐々宝砂 2005-05-17 21:30:22
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