診察室
リリー

 このところ何も
 ほんとうに 話す事が無く
 彼の微笑に
 「はい。変わりなく過ごしています。」
 とだけ

 困っている事も
 迷っている事も
 どうにかしたいと希むことも
 彼へ
 口にする程 認識すら出来ていない

 例えば 月はほぼ二十八日で
 地球を一公転する間に一自転する
 仮に彼が 地球ならば
 私は三週間で一自転し 
 いつも同じ面しか見せていない

 たまに会話もするが彼は
 どうなったのか?
 の 物事の結末を尋ねない

 そう 玄武岩でできている月面の暗い影、
 「晴れの海」にも「雨の海」にも
 水があるわけではない

 けれども
 目を凝らせば 深海潜む
 玉蟲色したウミヘビが見えないだろうか

 これといって何も話さず
 カレンダーで次の投薬日を確認し
 席を立つ私は
 人間に すがたを変えて

 
 

 




自由詩 診察室 Copyright リリー 2024-01-20 07:00:04
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