診察室
リリー
このところ何も
ほんとうに 話す事が無く
彼の微笑に
「はい。変わりなく過ごしています。」
とだけ
困っている事も
迷っている事も
どうにかしたいと希むことも
彼へ
口にする程 認識すら出来ていない
例えば 月はほぼ二十八日で
地球を一公転する間に一自転する
仮に彼が 地球ならば
私は三週間で一自転し
いつも同じ面しか見せていない
たまに会話もするが彼は
どうなったのか?
の 物事の結末を尋ねない
そう 玄武岩でできている月面の暗い影、
「晴れの海」にも「雨の海」にも
水があるわけではない
けれども
目を凝らせば 深海潜む
玉蟲色したウミヘビが見えないだろうか
これといって何も話さず
カレンダーで次の投薬日を確認し
席を立つ私は
人間に すがたを変えて