のれん
そらの珊瑚

朝、いつものようにキッチンに向かう
痛っ、イタタ
キッチンの入り口にぶら下がっているのれんに頭をぶつけた
昨日まで柔らかい麻布だったはずだったのれんが
硬い板状の物体と化していた

一体これは?、と考えている時間はわたしにはない
家族四人の朝食と弁当作りに取りかからねばならない
特に食事作りが好きというわけではないが
他にやってくれる人もいない
主婦の仕事といえばそれまでだが
誰も誉めてはくれないし
休日はないし
ましてや賃金は発生しない

ダイニングとキッチンを何度か行き来するうち
わたしは板状のれんの簡単かつ安全なくぐり方を編み出した
手は塞がっているので
背中からいくのである
のれんに腕押し、ではなくて

押されたのれんはすこし弾んで上に開き
すぐに落ちてくる

わたしはのれんの返り討ちにあわないように
ささっと身を低くして翻る

それを見ていた
ダイニングテーブルでおにぎりを手にした幼い子が
まま、かっこいい
と叫ぶ
のれんはぶらーん、ぶらんと揺れている


自由詩 のれん Copyright そらの珊瑚 2024-01-18 13:53:35
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