ドラえもんのうた
板谷みきょう
日本に来るのが
初めての留学生の二人は
日本語も話せない
十代の女性だけれど
来た初日に
歓迎会のアトラクションとして
歌って欲しいが
引き受けてくれますか?
そんな
ホームコンサートの依頼がきた
二人の留学生はタイランドから来て
歓迎会では留学エージェントが
通訳をしてくれるという
演奏時間はどのくらいで
謝礼はいくらなのかも確認して
「判りました。大丈夫ですよ。」
ホストファミリーにそう伝えた
当日
約束の時間には少し時間が有ったので
彼女らが
何処にも寄らず来訪することを思い出し
和菓子店に立ち寄り
一口羊羹やら
饅頭や煎餅
どら焼き、団子等を買って
箱に詰め合わせて貰って
土産にした
和菓子を
初めて口にした時の
表情を想像するのは
楽しいものだ
別室に待機して
留学生の名前をメモして
時間通りに
コンサートが始まった
一通り
いつものライブを
始めたのだが
言葉の壁のせいか
留学生に
何も響いてないのが分る
出演を依頼した家族の
顔色を伺うと
不安げな表情を
浮かべている
大ピンチだ
しかし
こんな危機的状況を
何度も
乗り越えてきたのではないのか
自分
おもむろに
後ろに置いていた
和菓子の箱を取り出して
留学生二人の名を呼び
来日初日に和菓子を
味わって貰うことにした
恥かし気に前に出た二人は
箱の中を見た途端
説明をする間もなく
面を輝かせ
大声で
「DORAYAKI!!」
二人して叫ぶと
打って変わって
饒舌に話し出した
通訳者の話
母親の時代からテレビで
日本の「ドラえもん」を見ていた
ドラえもんの好物の
どら焼きを初めて見た
日本に来た初日に
食べることができるなんて
とても幸運なことだ
良い思い出になる
ありがとう
直ぐに
ボクはアカペラで歌った
♪こんなこといいな
できたらいいな
あんなゆめ こんなゆめ
いっぱいあるけど♪
彼女らはタイ語で
一緒に歌う
♪アンアンアン
チョプ・マーク
ルーイ・ラ ドラえもん♪