社長さんの有給
たもつ
社長さんが有給を取った
社長さんだから
就業規則とか関係ないのに
パソコンで作ったであろう
お手製の服務整理簿を持ってきて
海に行くんだ
と少し照れくさそうに置いていった
社長さんが海だなんて
大切なものを拾いに行くか
大切だったものを捨てに行くか
それくらいしか思いつかないけれど
社長さんの大切、って何だろう
自分の大切、って何だろう
服務整理簿の端が
空調の風に揺れている
またいつか海に行く日のために
大事にファイリングしておく
仕事を終えて社外に出ると
低気圧が通り過ぎた後の
すっかり晴れ渡った星空が見えて
駅の機械で定期券の継続をした
ホームに到着した列車は
終点まで乗れば海まで行けるのに
子供の頃に溺れた海しか
もう思い出せない
(初出 R6.1.14 日本WEB詩人会)