社長さんの有給
たもつ



社長さんが有給を取った
社長さんだから
就業規則とか関係ないのに
パソコンで作ったであろう
お手製の服務整理簿を持ってきて
海に行くんだ
と少し照れくさそうに置いていった
社長さんが海だなんて
大切なものを拾いに行くか
大切だったものを捨てに行くか
それくらいしか思いつかないけれど
社長さんの大切、って何だろう
自分の大切、って何だろう
服務整理簿の端が
空調の風に揺れている
またいつか海に行く日のために
大事にファイリングしておく
仕事を終えて社外に出ると
低気圧が通り過ぎた後の
すっかり晴れ渡った星空が見えて
駅の機械で定期券の継続をした
ホームに到着した列車は
終点まで乗れば海まで行けるのに
子供の頃に溺れた海しか
もう思い出せない





(初出 R6.1.14 日本WEB詩人会)




自由詩 社長さんの有給 Copyright たもつ 2024-01-16 06:55:00
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