ポエジーの茨
ホロウ・シカエルボク


生活を切り刻み、静寂をサルベージする、洗練された怠惰を身に纏うものたちのそこここで見かける言葉、段階を踏んで、手順よく並べるだけの…そうさ、実はそれは君じゃなくたって構わない、僕は神様の唾みたいに窓に降りかかる雨を見てる、本当のことなんて本当は僕らの高さには無いものなんだ、僕は生まれつき無駄な努力を敢えて選択してきたのさ、君にとって僕が薄汚いものに見えるなら、君は自分の目を丁寧に洗浄してくるべきだ、もしも今すぐにそうしてくると言うのなら少しくらいはここで待っていることも出来るよ、変拍子のヘビー・メタル、アルバムのタイトルは忘れてしまった、あんまり冴えたものではなかった気がする、何か書こうと思うけどすぐに眠くなる、たぶんエアコンのせいさ、でも実際、それでも着こまなくちゃならないくらいなんだから…時なんてどこかに行ったりどこかからやって来たりなんかしない、それは必ずここにあって生きている限り失うことはない、そんな認識がどうして生まれたのかと言えば時間の概念が発明されたからだと言わざるを得ない、僕の部屋には勝手に目に入る時間はない、携帯をタップするか、パソコンのディスプレイを覗き込むかしないと、僕はそれを知ることは出来ない、でも僕が積極的にそれを知ろうとすることはない、仕事に遅れないようにするとき以外には―静寂は解体される、静かに、組織を傷つけたりすることのないように、慎重に…でも静寂の組織から溢れ出る血液は処理されない、そいつは僕の脳味噌に染み込んで赤く染める、僕の思考は静寂の概念で真赤になる、静寂とはある意味で、生と死のどちらにも属さない瞬間だと言える、だから僕はその血に塗れたくて仕方がなくなるのだ、静寂…静寂とはノイズを恐れなくなった先にある、限界まで濃縮されたノイズはある瞬間に突然静寂に変わる、それには段階も前兆も無い、ただある瞬間に突然、静寂に変化する、僕は静寂を解体しながら、あの瞬間のことをどんな風に話せばいいだろうと頭を悩ませる、それはとんでもない瞬間なのだ、存在が魂だけになって、世界にシンクロするような感覚…僕の人生には幾度かそういう瞬間があった、僕はそれだけの為にこの人生を進行させてきた、それ以外のことはどうでもよかった、解体された静寂は机に並べられた、解体された静寂は次第に色を変えた、だから僕はそれをみんなゴミ箱の中に放り込んでシャワーを浴びた、静寂から溢れた血はあっという間に排水溝に吸い込まれていった、誰がそいつを拾う?誰がそいつの魂を思う?そいつはもうどこにも存在しない、同じ手は二度と使えない、新しい手段が必要になる、狩猟や栽培のようにはいかない、ノウハウはひとつも存在してはならない、僕が何を言っているか理解出来ないのなら君はすべてを諦めて大人しく暮らすしかない、雨は止んだけれど病的とも思える風が激しく吹き続けている、安普請の家は赤子の笑い声のような音を立てて軋む、明日には年号が変わるらしい、丁寧に組み上げられた時間の概念、でもその中でみんな何をして生きている?その中のほとんどは手の込んだおままごとにしか見えない、みんな手渡されたシナリオを疑いもしない、僕は早くから彼らの舞台は降板させてもらった、もっともっと話したい言葉がたくさんあったからだ、いや、厳密に言うと、そいつは言葉じゃない、幾つかの言葉の連なりから生まれる新しいイメージだ、言葉は入口に過ぎない、僕は言葉を飛び越えるためにそれを利用するのだ、結果、詩という結果から大きく離れてしまっても構わない、僕がこだわりたいのは詩情だけなのだ、言葉はノイズだ、ノイズは出来るだけ大きく、長く、しつこく続かなければならない、それは反響も手伝って違う響きを生み出していく、僕はその変容を残したくてキーボードに手をかける、濁流に飲まれ、上下左右の感覚を失い、あちらこちらを岩にぶつけて、傷ついたり欠損したりしながらやがて海へと放り出される、そうだ、静寂とうのはスケールの問題なのだ、ノイズは変わらず存在し続けている、でも、いつしかその羅列はスケールによって飲み込まれるのだ、僕は叫ぶ、生まれたばかりの羅列を、ディスプレイに刻まれたそいつらはまだ何かを求めている、それは生命の振動だ、僕だって同じことさ、僕は叫ぶことでそいつを心臓にレコードする、心臓は僕の振動で激しく跳ね回る、いいぞ、静寂は僕の手で生まれ変わる、さあ、ここにおいで、僕は解体されて羅列の中に散らばる、その血を拭ってくれるのは誰だろう、そいつをゴミ箱に投げ込んでくれるのは誰だろう?気が進まないなら放っといてくれりゃいいさ、腐敗が始まったところで記念写真の一枚でも撮っておいておくれよ、いつか僕がそれを目にすることだって絶対に無いとは言えないんだから。



自由詩 ポエジーの茨 Copyright ホロウ・シカエルボク 2023-12-31 15:27:34
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