お下がりの自転車
ちぇりこ。

お下がりの大きな自転車は
不躾な轍を踏んでいた
5時のサイレンが鳴る頃には
納屋の隅の方から
古い天気予報が発掘された
曇りと雨の日には
ばってんが付けられていたけど
晴れの日は見たことがない
お下がりの大きなスポークは
錆びた風をくるくる回していて
お母さんは買い物へ
買い物には自転車が必要で
お下がりは大きくて
弟は家で小さな影になっていて
姉さんは部活動でゲル状になっていて
お母さんは買い物中で
ぼくは錆びた轍の上を
おしっこを我慢しながら走っていた
崎村さんちの田んぼの横のあぜ道で
M・ベジャールの振り付けで倒れた
カカシが笑っている
その横でジョルジュ・ドンが
くるくる回る
超音速でくるくる回る
カカシもジョルジュ・ドンもボレロも
人間臭いから苦手だった
おしっこを我慢しながら
お下がりはとても人間臭いから
苦手だった


自由詩 お下がりの自転車 Copyright ちぇりこ。 2023-12-19 19:08:10
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