消え物
タオル
お供えのような小さな菓子を買う
あまくてすぐに溶けてしまう
ころんとしたなまえの。
傘を開くとボンと音がして、腕に吊った菓子箱が少し跳ねる。
タカタカタカと安定したそぶりで行き過ぎる新聞配達夫や
このくらいの雨に動じない子らがさわがしく道を塞いで
ちっとも遠くない道なのに急に遠くて重だるい気分になってしまう。
毎日のケンカやののしりあい、
それでもときどき口に入ってくるおいしいもの
守るように取り囲んで、否・取り囲むようにして、
わずかに、わずかに息を入れ替える
味わう舌は乾くから、珈琲なり、お茶なりなんなりと吸い込ませつ、
もう一つ、妙にあかるい藤色のそれを指でつまむ。
──西洋の干菓子、と祖母は言った。しわしわの掌にちょんと載せ。
わからないなあとわたしはのんびり笑った。
この舌のうえで儚く消えていったものたち。
静かに味わわなければ、と思う。夜のようになるべく静かに。
舌にはかわいい、まあるい跡がのこるにちがいない。
──また明日。と祖母は言い、その言い方でもう口中に何もないのが分かった。
いつものようにせまい玄関に立つと左手を壁に付けた姿勢でつっかけを履く。
もう帰るの?
わたしは追うように声を出す。まだあるのに。
──もう充分だよ、甘いものは。
祖母は笑った。
その笑った口に、かわいいまあるい跡は見当たらなかったけど、
戸を開いたら、夜の闇がやさしかった。
。