昔の異国の詩人
籠の中の鳥は誰よりも遠く高く飛んだ
鳥籠を選んだのは彼女自身
名ばかりの自由という見えない鳥かごの中を
ただ同じように旋回するだけの鳩の群れの一羽になるよりも
自分だけの静謐
自分だけの鳥籠を選んだのだ
そうして彼女はことばを編んだ
小さな太陽を心臓として持つ雲雀が
叢の中にひっそりと隠れてするように
いま歌声だけが天高く時を超え
時間と距離に翻弄されてはいけない
たとえそれが星の光のようであっても
ゼロ距離でつながることができる
発したこころと受けとったこころ
ことばの端と端をつかんだその瞬間
わかったふりなどしなくていい
たとえ理解できなくても
熱やふるえが伝わって来る
薄皮一枚へだてたみたいに
こころの凹凸を感じるくらい
これは自分かと そして
自分のこころを相手のこころかと錯覚するほどの陶酔
コントラスト
幼稚園バッグをかけた女の子がふたり
母親につれられてやって来る
うっすら雪の積もった歩道の上を
踊っているのか何かのものまねか
ふたりそろっておどけた動き
双子ではなく年子だろうか
少しだけ背丈に差がある
どちらも淡い色のラックを着て長靴をはいている
ニット帽の形は違っていて
ひとりはまるくもうひとりは角のような耳のようなとんがりがある
わたしはこの光景を
バス通りを挟んだ向かい側の駐車場から見ていた
親子は見られていることに気づいていないし
わたしもまたどこかで見かけても同じ親子だとは気づかないだろう
わたしはこの親子について何も知らない
父親がどんな人か
こどもたちは何が好きなのか
今どんな会話をしているのか
何も知らないでただぼんやり眺めている
少しだけ想像することはできる
わたしもまた自分のこどもを連れて
園バスを待っていたことがあるから
この頃のこどものかわいらしさ
落ち着きのなさ
手がかかり大変なこと
そんな時間はあっという間に過ぎ去って
懐かしむことしかできなくなることを
そして今わたしは自分の子ではない何の責任も持たない
他人のこどもたちのかわいらしさを
こうして遠くから眺めて楽しんでいる
さみしさやかなしさ 自分の中の悲哀の祭壇を
あざやかに灯して引き立ててくれる
こんな光景をまぶたで噛みしめて
黄連雀
小鳥の鼓動を聞く
目をつむり見つめ
かき消すように殷々と
沈黙にふさわしい
手袋もないまま
片言のパンを分け合った
ひとの鼓動
指先を焼いた円い釦
雪の中に活けられた死
皮も声も透けて
(2023年12月17日)