無償の愛
由木名緒美

無償の愛

という象形を額縁に飾り、鑑賞する

両親から与えられたものは
すべからくだろう

しかし、彗星のように降ってきた

この

無償の愛

という生命体の、網膜にも鼓膜にも脳髄をも無感覚にすり抜ける未知体を

私である、と認識する、この有機物のどこをどのように鋭敏化すれば究明出来るのだろう

無償の愛

エンゼルフォールのように空の最果てから地の最果てへと吹き渡る飛沫のように

地球の水脈を浴びて
カプセルホテルの中に居るような空間認識もなくぽかんと空を見上げているだけの私、

滝になりたいと洗面所の蛇口を捻っても
三角形の陶器はすぐに溢れてしまう

ならば、絶滅危惧種のコンドルとなり崖上を旋回すれば

無償の愛

とやらを有象に出来るのでしょうか

または火の水となって血を滾らせ、地球に静電気の微光を走らせれば
瀑布と添い合う地脈となって地殻をなぞることが出来るでしょうか

私はスマートフォンのスクリーンの中から愛の深部を検索する

深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて深くて

もうはじまりのバナーも辿り着きようがない

けれども、その膨大なデータをフラッシュメモリに蒐集して恍惚とするよりは
ぽつりぽつりと落とし合う無味乾燥な社交辞令の応酬のに

生身の体温の閾値を試みるのです

それは、はじまりでしょうか

無償の愛

求めないこと

無償の愛

与えること

私が与えられるものは何だろう

何も与えるものがないということを与えること

透明へ透明へと
変態していき

生まれ変わっていく

無償の愛の中で

はじまりが訪れるように

人と人とが

出逢うように



自由詩 無償の愛 Copyright 由木名緒美 2023-12-10 19:09:34
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